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ケアソクの研究開発者たち

足先の血液循環は健康のバロメーター」医師 中條俊夫が語る『あたためる』の機能性

『あたためる』シリーズの監修を務めた医師の中條俊夫先生は、小児外科医として東京大学医学部付属病院や国立小児病院などで数多くの手術を担当し、また東京大学や北里大学の医学部で教鞭を執り、学生たちの育成に当たってきた。御年88歳(2019年取材時)。現在は東都大学の学長を務める傍ら、床ずれ治療の専門家として全国を精力的に回る中條先生にお話をうかがった。

床ずれ治療と靴下づくりの交差点

なぜ『あたためる』の開発に携わることになったのでしょうか。

私は今、医師として「床ずれ」のケアや治療に力を入れています。これは医学的には「褥瘡(じょくそう)」といって、寝たきりなどによって体重の圧迫を受け続けた箇所の組織(皮膚、皮下脂肪、筋、時に骨まで)が循環障害によって変性し、最悪の場合は、組織が死んで「壊死(えし)」となり、組織が欠損してしまう病的所見をいいます。全国を回りながら、床ずれに苦しむ高齢者の方々のために講演をしたり、相談にのることに努めています。

これまで診てきた褥瘡(じょくそう)の症例数は6500以上。日本でこれだけの臨床数を誇るのは中條先生だけ。

床ずれの患者さんや長期間病床におられる方々と接していると、足先が驚くほど冷たく、色も黒ずんだり、蒼白になっている人が多いことに気づきます。これは足先の血液循環が悪くなってしまったためなのですが、この状態が続けば足、とくに趾(あしゆび)の代謝が障害されて、やがて壊死へとつながってしまいます。その改善に役立ったのが山忠の靴下でした。

人間の身体には様々な器官がありますよね。血液はそれらの栄養源や酸素などを運搬して供給する役を果たすべく全身をめぐっているわけですが、少し語弊のある言い方になりますが、足というのはある意味で生体生命維持の点で“優先順位”が低く、血液供給の点で犠牲になりやすい。

例えば脳や心臓、肺や肝臓といった臓器は、血液の循環状況が悪いと死の危険に直結します。一方の足は、血のめぐりが悪くなってもただちに生命を脅かすわけでない。つまり、個体を維持するための部位としては片隅に置かれていて、血液の循環状況が悪くなると最初に犠牲になる場所が足なんですよ。逆に言えば、足先の血液循環がよいということは、全身状態が良好。生命の危険度は低いということでしょうか。

その足を温めるために用いたのが山忠の靴下だったわけですね。

そうですね。山忠さんとは元々、共通の知人を介して中林会長と知り合う縁をいただいたことがきっかけでして、そこから講演会に招いていただくなどのお付き合いが続きました。そんな中で、山忠さんにうかがった際に直営店で『とにかくあったかい靴下』という分厚い室内専用の靴下を自分用に購入したんですが、その温かさにとにかく驚いた。まさにネーミング通りですよね(笑)。

朗らかな笑顔で場を和ませてくれる、お茶目でキュートな紳士です!

それと同時に、「これを足先が冷たくなってしまっている患者さんに履いてもらったらどうなるだろうか」とピンと来たんです。それでお試しの気持ちで入院患者さんに履いてもらったら、足の所見の改善とともに、全身的にも症状改善が見られた。

その患者さんは意識のハッキリされていた方ではなかったので、温かいとか心地良いとかの声を聞けたわけではなかったんですが、翌日になって見てみたら、足の色がすごく改善していた。つまり足先まで血がめぐっていたわけです。

人間をはじめとして、動物では身体の末梢が冷えるとそこに届ける血流を減らして全身の体温の低下を防ごうとする仕組みになっているので、「冷える→血流が減る→さらに冷える」という悪循環が生じやすいんですね。そこを体温喪失を少なくする靴下で温めてあげることにより、逆の好循環を作り出すことができた。これは足先を保温することの重要性を臨床的に実感した瞬間でした。

中條先生が『あたためる』にもたらしたもの

中條先生のアドバイスにより、より機能的で保温効果も高い『あたためる』が生まれました。

さすが雪国・新潟の地で靴下づくりを続けてきた山忠さんだけあって、足を温めることの大切さは最初からわかっていたわけですよね。だからとにかく生地が分厚い(笑)。これはおそらく、家の中や長靴で履くという前提で作っていたからだと思います。

このように、保温という観点ではすでに十分な知見が蓄積されているので、私はそこに、例えば寝たきりの高齢者やオフィスで働く女性などでも利用しやすくなるよう、生地や形状に関するアドバイスを加えさせていただきました。

人間は老化に伴い、お尻の筋肉を始め、徐々に筋肉がやせ細っていきます。そうすると、肉に覆われていた各所の骨──例えば骨盤を形成する腸骨(ちょうこつ)、脊椎の下部に位置する仙骨(せんこつ)、足のスネにあたる頸骨(けいこつ)、下腿の外側を守り、くるぶしの外側まで伸びる腓骨(ひこつ)などが突出してくるわけです。骨の出っ張った部分が、寝たきり状態の中で、布団と接触して血管を圧迫し、リンパの流れを妨げ、下肢全体の生命力を低下させ、こすれによる皮膚損傷が加わり、踵やくるぶしなど下肢のいろいろな部分に潰瘍ができてきます。こうして起こるのが床ずれです。

ケアソク『あたためる』は、分厚い生地で足先を保温してくれるばかりでなく、そのクッション性によって突出した骨をやわらかくカバーしてくれます。そして、一緒にプロジェクトを進めた若いスタッフのセンスによって色や形のバリエーションも増え、女性たちにも手に取ってもらいやすいものになったと思います。

やさしい風合いの『あたためる』。機能性はもちろん、細部までクオリティにこだわっています。

ヒューマンケアとフットヘルスウェア

共同開発の結果、家庭やオフィス、医療の現場など、幅広い場面で活躍できる靴下になりました。

何よりこの靴下が素晴らしいのは、「その人自身の力で足先を温める」という点ですよね。カイロや湯たんぽのように外部の熱に頼るのではなく、血液循環をよくすることで内側から身体を温めていく。これは人間が本来持っている生存のための機能を改善していくというアプローチです。足からの体温喪失がわずかになったことを生体が感じると、下肢にゆく血液を増やしても大丈夫と判断して、足先に届く血液量を増やします。血流がよくなれば血管が太くなり、骨や筋肉の強度も上がっていき、床ずれになりにくくなります。

足と血流のメカニズムを丁寧にレクチャーしてくれる中條先生。眼差しはいつも真剣です。

また、例えば糖尿病などによって足先の神経が麻痺してしまっている人は、そもそも外部温度を敏感に感じ取ることができないので、カイロや湯たんぽで温めすぎて火傷してしまっても気づかなかったりします。靴下で温める分にはそういった心配もない。自分がちょうどいいところまで自分の力で温めて、必要以上に温度を上げることがない。こういう点も靴下の素晴らしさのひとつですね。

この自然治癒力を活かすアプローチは、私が床ずれ治療で最も重視しているポイントです。山忠さんは「フットヘルスウェア」という概念を提唱し、科学的なエビデンスに基づき、足が本来持っている機能を引き出す靴下づくりを進めています。また、それを通して人々の健康維持に貢献していきたいという意欲もお持ちですよね。私もその姿勢にとても共感しています。

中條先生も、学長を務められている東都大学の学部名にもなされた「ヒューマンケア」という考えを重視されていますよね。

東都大学では看護師をはじめ、医療にたずさわる分野(助産、保健、栄養、理学療法)の人材の育成に努めているのですが、看護学部ではなく「ヒューマンケア学部」という名前になっているのは、学生一人ひとりに、知識と経験だけで患者さんと接するのではなく、患者さんやご家族の気持ちを考え、精神・心理面からもしっかり支援していけるような看護師になって欲しいという願いからなんですね。知識や技術、経験はもちろん必要です。しかしそれは、人間の尊厳や生命の尊重といったものを大切にするという心構えの上に成り立つ話です。

山忠さんは創業以来、お客さんの声に耳を傾け、どのような靴下が必要とされているのかを常に考えながら商品開発をされていますよね。さらに今回のケアソクシリーズは、医療分野の知見やエビデンスに基づき、“足そのもの”が喜ぶ靴下づくりをコンセプトに開発されています。その結果生まれた『あたためる』は、ヒューマンケアとフットヘルスウェアを兼ね備えた商品ではないかと考えています。

足は健康のバロメーターであり、足先の血液循環がよいということは全身が元気であるということです。臨床の知見が詰まった『あたためる』は、健康の土台づくりに役立てる靴下だと思います。私も現在88ですが、今でもスキーを楽しむなど、足の健康が人生の支えになっています。ぜひみなさんも山忠の靴下を試してみてください。

※本文内の役職等は取材当時のものです

中條俊夫(なかじょうとしお)
青葉病院 名誉院長
東都大学 理事・名誉学⻑
外科医。とくに小児外科医として東京大学医学部教授や神奈川県立がんセンター所長などを歴任したのち、1997年より関越病院にて褥瘡(床ずれ)ケアを担当、第1回日本褥瘡学会の会長を務めるなど褥瘡医療のレベル向上に関わる。現在に至るまで床ずれの臨床数は6500カ所を超える。血液循環を上げるために足先を温めることの重要性をドクターの立場から発信・実践している。