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ケアソクの研究開発者たち

研究を、世の中のために」共同開発者 阿部薫教授がケアソクに込めた想い

国内大手メーカーの商品開発や、足の疾病予防の観点から最適な靴を提案するシューフィッターの育成などにも関わっている新潟医療福祉大学の阿部薫先生。日本におけるフットウェアの第一人者が、『ととのえる』の開発に携わった経緯とは。そのストーリーと開発秘話に迫ります。阿部先生のお話から見えてきた、靴下の重要性とは。

なぜ今、靴下なのか

フットウェアの第一人者である阿部先生が、なぜ「靴下」の開発に?

靴下の前に、靴の話をしましょうか。

靴の問題って非常にデリケートなんです。服はS・M・Lでサイズが決められますが、靴はミリピッチ。プラスマイナス2.5ミリしか誤差が許されないんですよ。

立つ、歩く、走ると変化していくにつれて、足も変形していく。靴には歩行による足部の変形に対して、追いついて変形していく機能が求められています。

そこで問題になるのが、靴の内側と皮膚との摩擦なんです。あの力が足にかかると、皮膚の弱い人はペラっと靴擦れを起こしてしまうわけです。健康な人は靴擦れくらい平気かもしれないけれど、皮膚が弱くなった高齢者、まだ皮膚が完成されていない子ども……あとは傷が治りにくい糖尿病の方たちはそもそも傷をつくらないことが大切なんです。

時にユーモアも交えながら、楽しく分かりやすく足の話をしてくださる阿部先生。その話術は大学の講義でも発揮され、毎年人気ナンバーワンの講義なのだとか。

実は、糖尿病と足って関係が深い。傷が治りにくい理由は、糖尿病が細胞死をもたらしてしまうからです。たとえば、関節って普通シワがあるじゃないですか。これ、いわば皮膚の“余裕”です。でも、糖尿病で細胞が少なくなると、シワができなくなる。栄養が行き届かなくなるから、体毛も抜けて、ツルツル・ピカピカの皮膚になるんです。一見良さそうですが、皮膚の代謝もできなくなっているので、怪我をしても治りにくい。免疫細胞も少なくなっているので、ばい菌が入ると命に関わることも。

そんな病が日本の成人において2人に1人が予備軍だと言われています。大切なのは、「足に傷をつくらないこと」。そこで、フットウェアの出番がやってくるわけです。

世界を見ても、糖尿病患者向けの靴は開発されていますが、靴下はほとんどありません。先進国のドイツやアメリカの靴下も、想定の範囲内というか。「山忠ならもっといいものがつくれる」。そう確信して、知り合ったばかりの中林社長に持ちかけたんです。そして、ケアソクの開発以前に、別のプロジェクトとして共同研究が始まりました。

研究者と企業の関係がフィフティーフィフティー

阿部先生は「ケアソク」の開発以前から山忠と関わっていたということですね。

はい。きっかけは、共通の知り合いからの紹介です。彼が山忠の中林社長を研究室に連れてきました。ここだけの話、そのように「話を聞きたい」という人はたくさん来るんですよ。でも、その志はさまざまです。とりあえず1回はお会いしますが、「申し訳ないですが、お力にはなれません」という場合もあれば、「面白いから一緒にやりましょう」というケースもある。山忠に関しては後者だったわけです。

そのあたりの判断軸はどこにありますか?

企業側と僕との関係がフィフティーフィフティーかどうか、ですね。そもそも共同研究はフィフティーフィフティーの関係であるべきなんですけど、実態はそうではないことが多々あります。

私のような学者にとって最大のメリットは、研究の成果を学会で発表することです。だから、私個人としては一方的にアイデアを提供することには全く興味はないんですよ。当然、メーカーの商品開発に関わりたかったわけでもない。

しかし、山忠は違いました。技術力、コンセプト力が他の企業とは段違い。さらに、研究開発のプロセスや費用面で対等に向き合う精神があった。こちらが安心してアイデアやノウハウを提供できる関係性を目指してくれました。

あと、もう一つ決め手を挙げるとしたら、中林社長の人柄ですよね。2018年で60歳になるけど、いい意味で少年のように真っ直ぐで、熱くて、純粋で、社員想いで……。いろんなことを話すなかで、この人とならいい仕事ができそうだというイメージが湧きました。それで「やりましょう、どうせ会社のある加茂市は近所だし」と(笑)。

世の中の役に立つことこそ、研究者の使命

お話をうかがっていると「専門分野を探求して、物事の真理を突き詰めていく」というような、いわゆる研究者のイメージとは違う印象を受けます。

研究者にそういうイメージを抱いている人は多いかもしれませんね。でも、私は世の中に役立つものを生み出すためのお手伝いこそが、研究者の使命だと思っています。そして、これからは世の中の役に立つ研究ができないと生き残っていけない時代になるでしょう。

すでにアメリカは民間の力が強いので、政府の介入や国の補助金を社会的に受け入れないところがあります。ファンドや財団がお金を出すのは、民間に成果が還元されると見込まれる研究です。役に立たない研究はお金にならないんですよ。

まだまだ日本は国や政府の力が強いですが、確実に潮目が変わってきていると思いますね。

あと、個人的に「世の中の役に立ちたい」という気持ちは強いと思います。もともと私は田舎の商業高校を卒業して問屋や工場で働いていたんですが、たまたまテレビで義肢装具士という仕事を知って、専門学校へ入学。そこで大学教授という夢を見つけました。

無事、大学教授という夢を叶えた今、私がすべきことは周りの人の夢を叶えること。でも、自分ひとりで社会全体を変えることなんてできないから、目の前の助けを求めている人を一人ひとり支援していきたいと思っています。それが研究者である私がすべき社会貢献なんですよ。

中林社長もそのひとりだった、と。

そうですね。山忠はこれまでも良質な商品を開発してきたけど、機能性商品を追究しようと思ったらメーカーの知見だけでは限界があるんです。いくら靴下に詳しくても、足のこととか歩行のこととかを科学的に理解していないと。

そこで、山忠が立ち上げた「足の研究会」にうちの研究員を派遣して、足の役割や働きについて専門的な知識を深める機会を設けました。『ととのえる』の着用効果を測るために足底圧計測機を使いますが、このデータから足がどのような状態でどんな改善点が見られるか、専門的な観点での読み取り方のアドバイスもしています。「世の中の役に立ちたい」という想いが一致しているからこそ提供できることだと思います。

「ただこの靴下を履くだけでいい。その手軽さがいいよね」と阿部先生。

共同研究によって完成した『ととのえる』のポテンシャルはどのように感じますか。

履いた瞬間の印象は衝撃的でした。足の横アーチをしっかりサポートしているな、と。狙った締め具合を実現できていました。かかとのハニカムクッションも非常に面白いと思ったし、かかとの脂肪が減った高齢者の方などには、かかとの脂肪層の代わりとして機能しそうです。同様の機能を果たすような靴は存在しますが、靴下ではなかなか無い。家の中でも足をサポートできるというのは、画期的なことです。

もはやケアソクは、靴下ではなく、靴下の形をした健康器具なんですよ。山忠はそれを『フットヘルスウェア』という新しい概念で表現していますね。

これまでもいろんな企業と付き合ってきましたが、私がパッケージに名前と顔を出すのはケアソクが初めてです。原型は山忠の人たちががんばってつくってくれたものだったので、僕が出しゃばるのはとても恐縮なのですが、少しでも役に立てるのならいいかな、と。

ちなみに冒頭でお話しした糖尿病患者のための靴下ですが、これも山忠の工場長がものすごくがんばってくれましたね。イメージに近い試作品ができました。で、さっそくその効果を確かめるために実験してみたら、いい意味で恐ろしいデータが出ました。今度足の国際学会で発表する予定で、これもまた楽しみでたまりません。社会に貢献できるプロジェクトと山忠とのご縁に、とてもワクワクしています。

阿部 薫(あべかおる)
新潟医療福祉大学 教授
靴医学、靴人間科学、運動機能解剖学、歩行分析学、義肢装具学を専門分野とする。2009年より同大学大学院にて、靴とヒトの歩行の関係を科学的に研究する「靴人間科学研究室」を主宰。足と靴の研究の第一人者として、世界各国の企業のアドバイザーや研究顧問を務める。